大学で扱う核不拡散(以下核セキュリティを含む)では、「政策」に特化した研究が一般的であすが、国際保障学研究室では、工学系研究科の特色を活かし、原子力エネルギーに焦点を置いた核不拡散研究として、「技術・工学」を念頭に、技術・政策を融合させた形での研究に取り組むということを基本に活動を展開しております。原子力平和利用における核不拡散性の向上を目指し、核不拡散に関連する政策の変化を背景とした保障措置技術、核拡散抵抗性、核燃料サイクル多国間管理、核セキュリティ技術などの研究を進めております。
福島第一原子力発電所事故以降、原子力安全だけでなく、核セキュリティや核不拡散(保障措置)も含め、いわゆる3Sを所掌すべく原子力規制委員会、原子力規制庁が2012年9月に発足し、3S規制の強化および一元化が期待されております。
大学においても、福島第一原子力発電所事故で学んだ教訓を取り入れつつ原子力に係る技術レベルの維持向上や信頼性を回復させるために、これまでの「工学」を中心とした原子力教育研究に加え、上記の規制体制や政策の変革を視野に入れた3Sについて、より重点を置いた教育研究を展開することが必要です。これらは、単に3つの分野を個々に推進し、積み上げるということではなく、3Sを相互に意識する統合マネージメントのあり方を追求すること、それにより社会受容性を高めることに重要性があるものと理解します。
3Sのうち、核不拡散や核セキュリティ問題は、これまで、イラン、北朝鮮、パキスタン、米国など諸外国の問題と思われがちであり、我が国では必ずしも重要視されてきませんでした。しかし、今回の事故においては、問題が安全に限らず核セキュリティや核物質管理(保障措置)にも大きく関係していることを学びました。今後、我が国は、3S全般について真剣に取り組み、的確かつ効果的にマネージしていることを示すことが、原子力における国際社会での信頼回復に繋がるものと考えます。そのためには、安全文化、核セキュリティ文化、そして核不拡散の重要性への理解(核不拡散文化)を醸成すること、すなわち原子力における3S教育を推進していくことが重要です。一方、原子力3S問題が国境のない国際イシューであること、および燃料供給および使用済み燃料問題を含む核燃料サイクル自体が、容易に一国で完結できるものではないことを認識すべき時期に至ってます。核物質、設備、役務等の需給構造および核不拡散体制が変化しつつあるため、市場確保や資源確保において国際的な戦略的連携が重要になってきており、原子力を国際的事象として捉えなければもはや発展が望めない時代に突入しております。
以上に述べた観点から、今後の原子力教育・研究の取り組み方として、5S統合アプローチというものを取り上げます。ここでは、3Sの取り組みに持続性(S=Sustainability)を持たせることにより社会的安心を得る(S=Sociology)というアプローチであり、それをベースに多国間協力や国際プロジェクトなど国際展開を計っていこうというものです。
当研究室では、3Sのうち、核不拡散(保障措置)・核セキュリティの分野に主眼をおき、教育研究活動を実施していきますが、IAEAを中心とした国際的な取り組みである安全と核セキュリティの2S統合アプローチについても積極的に関与していきます。常に上記のような包括的な方向性にたち、3S(5S)を統合的に認識できる人材の育成を目指します。
「保障措置等核不拡散(Safeguards)」と「核セキュリティ(Security)」を併せた統合アプローチとしての研究を政策+技術の両面において展開します。
具体的な研究として次のようなテーマがあります。
そして、上記の統合アプローチとして、
などが挙げられます。
課程 | テーマ |
博士 | 米原子力協力の核不拡散の観点からの分析・評価 |
博士 | 次世代湿式再処理プロセスの核拡散抵抗性高度化のための保障措置システムの研究 |
修士 | ゲーム理論を用いた核テロリスクの分析-MOX燃料の海上輸送を例に- |